過小評価の実力馬 日本の守護神
ハイレベル世代の頂点
この年のサラブレッドは豊作だった。エルコンドルパサーにグラスワンダー、セイウンスカイにキングヘイロー。エアジハード、アグネスワールド。古馬になってからGⅠを奪取する馬も多く、まさに粒ぞろい。
そしてスペシャルウィークである。皐月賞3着、ダービー制覇、菊花賞2着でハイレベルな世代の第一線を走り続け、翌年には天皇賞春秋連覇にJC優勝と、トップクラスの名馬である。
強いライバルの存在は、自らが強ければ強いほど、自分自身の引き立て役になってくれる。それが互いに作用したときに、名勝負と呼ばれる感動の戦いが生まれるのだ。
しかし、強すぎるライバルは、ときに残酷であったりもするのだ。
1999年。スペシャルウィーク5歳。まさに充実期に入っていた。AJCC、阪神大賞典を連勝し、まずは天皇賞(春)でG1を勝ち、次の宝塚記念で2着に負け、京都大賞典は不可解な7着に敗れるも、天皇賞(秋)で2つ目のG1奪取。次のJCでは、凱旋門賞馬モンジューを返り討ちにして優勝。
もうこの時点で、G1を3勝、負けたG1も2着なら、たとえ、ここで引退してしまっても文句なしの年度代表馬である。
しかし、スペシャルウィークは、次の有馬記念に出走しなければならなかったし、勝たなければならなかった。
日本の守護神に勝利の女神は微笑まなかった
前年のジャパンCでスペシャルウィークを負かしていたエルコンドルパサーはその年フランスに渡り、GⅠとGⅡを1つずつ勝って、イスパーン賞と凱旋門賞で2着という実績を残していた。海外クラシックディスタンスで活躍できる日本馬は、エルコンドルパサーが初であり、その実力もさることながらインパクトは絶大だった。
そのため、日本に残されたスペシャルウィークは、有馬記念を制して日本最強を誇示しなければならなかった。それは、日本で競馬を盛り上げてきたスペシャルウィークの威信にかかわる一大事だ。
繰り返すが、1年間ですでにG1を3勝。エルコンドルパサーが負けたモンジューをJCで一蹴している。にもかかわらず、世論は有馬記念制覇を義務づけたのだ。
「スペシャルウィークは使うべきレースのすべてを使いました。どんな状況であろうと、どんな相手であろうと戦い続けたんです」とは、管理する白井寿昭調教師。
1年を通じて、常に主役であり続けた。天皇賞(春)では1歳上のメジロブライトを完膚なきまで叩き潰し、宝塚記念では2着に敗れるも、3着ステイゴールドには7馬身差をつける負けて強しのレースだった。 JCでは天下のモンジューを退け、タイガーヒルやハイライズといった強豪を打ち負かした。
いつも全力投球で走ってきたスペシャルウィークは、有馬記念のゴール寸前。グラスワンダーを4cmかわせば優勝という場面で、ついに力尽きた。
「競馬に勝って勝負に負けたという感じですね…」と武豊騎手がコメントしたように、最後の最後で、女神は微笑んでくれなかった。内国産馬を優遇するための外国産馬出走規制が、皮肉にもスペシャルウィークをヒーローの座から引きずり降ろした。
しかし、エルコンドルパサーが海外で日本の強さを見せつけていたとき、日本を守っていたのは、まぎれもなくスペシャルウィークだった。
父:サンデーサイレンス |
母:キャンペーンガール(母父:マルゼンスキー) |
17戦10勝 |
主な勝ち鞍 |
98’日本ダービー(G1) 99’天皇賞(春)(G1) 99’天皇賞(秋)(G1) 99’ジャパンカップ(G1) |
日付 | 開催 | レース | 頭数 | 馬番 | 着順 | 人気 | 騎手 | 斤量 | 距離 | 馬場 | タイム | 通過 | 勝馬 (2着馬) |
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1999/12/26 | 5中山8 | 有馬記念(G1) | 14ト | 3 | 2着 | 2人 | 武 豊 | 57 | 芝2500 | 良 | 2.37.2 | 14-11-5 | グラスワンダー |
11/28 | 5東京8 | ジャパンC(G1) | 14ト | 13 | 1着 | 2人 | 武 豊 | 57 | 芝2400 | 良 | 2.25.5 | 9-10-9-6 | (インディジェナス) |
10/31 | 4東京8 | 天皇賞(秋)(G1) | 17ト | 9 | 1着 | 4人 | 武 豊 | 58 | 芝2000 | 良 | 1.58.0 | 14-14-12 | (ステイゴールド) |
10/10 | 4京都2 | 京都大賞典(G2) | 10ト | 7 | 7着 | 1人 | 武 豊 | 59 | 芝2400 | 良 | 2.25.1 | 3-3-2-2 | ツルマルツヨシ |
07/11 | 3阪神8 | 宝塚記念(G1) | 12ト | 9 | 2着 | 1人 | 武 豊 | 58 | 芝2200 | 良 | 2.12.6 | 4-4-3-1 | グラスワンダー |
05/02 | 3京都4 | 天皇賞(春)(G1) | 12ト | 3 | 1着 | 1人 | 武 豊 | 58 | 芝3200 | 良 | 3.15.3 | 3-3-3-2 | (メジロブライト) |
03/21 | 1阪神8 | 阪神大賞典(G2) | 9ト | 5 | 1着 | 2人 | 武 豊 | 58 | 芝3000 | 重 | 3.13.4 | 3-2-2-1 | (メジロブライト) |
01/24 | 1中山8 | AJCC(G2) | 15ト | 9 | 1着 | 1人 | ペリエ | 58 | 芝2200 | 良 | 2.16.8 | 4-4-3-3 | (サイレントハンター) |
1998/11/29 | 5東京8 | ジャパンC(G1) | 15ト | 9 | 3着 | 1人 | 岡 部 | 55 | 芝2400 | 良 | 2.26.4 | 4-4-5-4 | エルコンドルパサー |
11/08 | 6京都2 | 菊花賞(G1) | 17ト | 17 | 2着 | 1人 | 武 豊 | 57 | 芝3000 | 良 | 3.03.8 | 10-9-8 | セイウンスカイ |
10/18 | 5京都4 | 京都新聞杯(G2) | 16ト | 10 | 1着 | 1人 | 武 豊 | 57 | 芝2200 | 良 | 2.15.0 | 11-8-2 | (キングヘイロー) |
06/07 | 3東京6 | ダービー(G1) | 18ト | 5 | 1着 | 1人 | 武 豊 | 57 | 芝2400 | 稍 | 2.25.8 | 10-10-8 | (ボールドエンペラー) |
04/19 | 3中山8 | 皐月賞(G1) | 18ト | 18 | 3着 | 1人 | 武 豊 | 57 | 芝2000 | 良 | 2.01.6 | 15-13-8 | セイウンスカイ |
03/08 | 2中山4 | 弥生賞(G2) | 13ト | 13 | 1着 | 2人 | 武 豊 | 55 | 芝2000 | 良 | 2.01.8 | 10-8-7 | (セイウンスカイ) |
02/08 | 2京都4 | きさらぎ賞(G3) | 16ト | 1 | 1着 | 1人 | 武 豊 | 55 | 芝1800 | 良 | 1.51.3 | 9-9 | (ボールドエンペラー) |
01/06 | 1京都2 | 白梅賞(500万) | 16ト | 3 | 2着 | 1人 | 武 豊 | 55 | 芝1600 | 良 | 1.36.0 | 8-7 | アサヒクリーク |
1997/11/29 | 5阪神1 | 新馬 | 14ト | 14 | 1着 | 1人 | 武 豊 | 54 | 芝1600 | 稍 | 1.36.9 | 5-3-3 | (レガシーハンター) |