常識を覆して勝ち取った前代未聞の三冠馬
ついに現れた競馬界の英雄
シンザンが三冠を達成して以来、競馬界には長らく三冠馬が誕生しなかった。三冠達成の難しさを思い知らされ、もはやシンザンを超えることは不可能であることを痛感するしかなかった。それでも、誰もがシンザン以来の三冠馬の誕生を夢見ていたのである。
シンザンが菊花賞を勝ってから19年後の、昭和58年11月13日。競馬ファン、関係者たちの夢が、ミスターシービーの手によってついに叶うのである。
シービーの菊花賞は、いまでも語り草になっている。掟破りの3コーナーからのロングスパートで、カツラギエースやリードホーユーら20頭を斬って捨てたのだ。調教師の松山師は、「古馬の強豪相手に、こんな競馬では勝てないな」と漏らしたが、ファンはシービーの破天荒なレースぶりに拍手喝采を贈ったのである。
三冠馬誕生を諦めかけていた競馬界にとっても、シービーは待ちに待ったヒーローだった。
神話を継続できなかったシービーの悲劇
シービーが最初は期待されていなかったのは有名な話だ。同厩のコレジンスキーのほうが評価は高かったし、シービーが共同通信杯を勝った後でも、その評価は変わらなかった。主戦の吉永正騎手でさえ、コレジンスキーのほうを買っていたのである。
しかし、シービーはその予想を覆して弥生賞、皐月賞、ダービーと連勝して世代トップに立った。それまで、タニノムーティエ、ヒカルイマイ、カブラヤオー、カツトップエースが二冠を制しながら、敗北、不出走で三冠を取り逃してきた。シービーはファンや関係者の期待とともに、先輩たちの無念を一身に背負ったのである。そして、その芸術的なレースぶりと圧倒的な強さは、秋の到来が待ち遠しくなるほどだった。
三冠を制したシービーは、脚部不安で11か月休養後、翌年の天皇賞(秋)に勝ち、勲章を増やした。しかし、シービーの最強神話はそこで終わった。翌週の菊花賞で、シンボリルドルフが無敗で三冠を制したのだ。それから、最強神話はルドルフのものとなってしまった。
その後も、ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴルと三冠馬が現れ、世論の最強馬論でシービーは一歩後れを取ってしまう。
だからといって、シービーの強さが風化するわけではない。あの強さとドラマは、いまでも競馬界の宝だと、私は信じて疑わない。
父:トウショウボーイ |
母:シービークイン(母父:トピオ) |
15戦8勝 |
主な勝ち鞍 |
83’皐月賞(G1) 83’日本ダービー(G1) 83’菊花賞(G1) 84’天皇賞(秋)(G1) |
日付 | 開催 | レース | 頭数 | 馬番 | 着順 | 人気 | 騎手 | 斤量 | 距離 | 馬場 | タイム | 通過 | 勝馬 (2着馬) |
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1985/04/29 | 3京都4 | 天皇賞(春)(G1) | 15ト | 7 | 5着 | 2人 | 吉永正 | 58 | 芝3200 | 良 | 3.22.3 | シンボリルドルフ | |
03/31 | 2阪神4 | 大阪杯(G2) | 10ト | 4 | 2着 | 1人 | 吉永正 | 59 | 芝2000 | 良 | 2.01.4 | ステートジャガー | |
1984/12/23 | 5中山8 | 有馬記念(G1) | 11ト | 2 | 3着 | 2人 | 吉永正 | 57 | 芝2500 | 良 | 2.33.3 | シンボリルドルフ | |
11/25 | 5東京8 | ジャパンカップ(G1) | 14ト | 1 | 10着 | 1人 | 吉永正 | 57 | 芝2400 | 良 | 2.28.2 | カツラギエース | |
10/28 | 4東京8 | 天皇賞(秋)(G1) | 15ト | 13 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 58 | 芝2000 | 良 | 1.59.3 | (テュデナムキング) | |
10/07 | 4東京2 | 毎日王冠(G2) | 9ト | 7 | 2着 | 2人 | 吉永正 | 59 | 芝1800 | 良 | 1.47.5 | カツラギエース | |
1983/11/13 | 5京都4 | 菊花賞 | 21ト | 4 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 57 | 芝3000 | 良 | 3.08.1 | (ビンゴカンタ) | |
10/23 | 4京都6 | 京都新聞杯 | 15ト | 7 | 4着 | 1人 | 吉永正 | 57 | 芝2000 | 良 | 2.03.2 | カツラギエース | |
05/29 | 3東京4 | 日本ダービー | 21ト | 12 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 57 | 芝2400 | 良 | 2.29.5 | (メジロモンスニー) | |
04/17 | 3中山8 | 皐月賞 | 20ト | 12 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 57 | 芝2000 | 不 | 2.08.3 | (メジロモンスニー) | |
03/06 | 2中山4 | 弥生賞 | 20ト | 12 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 55 | 芝1800 | 良 | 1.50.2 | (スピードトライ) | |
02/13 | 1東京6 | 共同通信杯4歳S | 14ト | 8 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 55 | 芝1800 | 良 | 1.49.5 | (ウメノシンオー) | |
1982/12/25 | 5中山7 | ひいらぎ賞(800万下) | 9ト | 3 | 2着 | 1人 | 吉永正 | 55 | 芝1800 | 良 | 1.50.4 | ウメノシンオー | |
12/04 | 5中山1 | 黒松賞(400万下) | 12ト | 10 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 54 | 芝1600 | 良 | 1.36.3 | (ユウフブキ) | |
11/06 | 5東京1 | 新馬 | 11ト | 11 | 1着 | 1人 | 吉永正 | 54 | 芝1600 | 稍 | 1.38.5 | ヒラタカエイコー |